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豆知識

はんだあげした電線について

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はんだあげした電線について

「はんだあげ」の目的と特性

以前、別の機会(ターミナル)において少しだけ記しましたが、電線の「はんだあげ」について考えてみたいと思います。
はんだあげというのは、一般にはんだを金属の表面に乗せることをいいますが、何のための作業(加工)なのでしょうか?
(“乗せる”といっても、ただ単に表面に乗せているのではなく、実際には、はんだと電線の素線金属表面との間で合金層が形成され一体化します。)

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       はんだあげする目的はいくつか考えられると思います。

1)【より線の単線化】 より線がバラけるのを防ぐ
2)【はんだめっき】 単銅線の表面をはんだでコーティングするなど。   めっきと言っても、めっき処理(鍍金)のめっきとは根本的に異なります。次項3)と通ずるところがあります。
3)【予備はんだ】 その他。 はんだ付けをする際に、付きや乗り、流れを良くするためにあらかじめはんだを流しておくことなど。  
  
また、
★圧着端子に圧着しないではんだ付け
 【バレル(圧着する筒部分)の内側をはんだで満たす(はんだ充填)】
★圧着端子を圧着する前に下処理として電線にはんだあげ
 などというのもありますが、
  これらは、本来の加工方法ではないばかりか、性能的にも保証がないので、
  避けたほうが無難です。

それでは、それぞれ、どういった意味や目的があるのか見ていくことにいたしましょう。

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1)【より線の単線化】 より線がバラけるのを防ぐ ----- 加工した電線の例(E)
  一般に、より線は、柔軟性がある反面、芯線の一本一本の素線が細いため、切れやすかったり、 何本かあるうちの一本が横に飛び出して、隣接する充電部に接触したりといったマイナスの面もあります。 たとえ、ごく細い線一本でも、「ショート」すると大問題になります。 一方、単線を使うと硬くて取り回しがしにくいということで、より線を使用しバラケを防ぐために、はんだあげすることは昔からよく使われる加工方法の一つです。 取り回しのし易さと、単線のメリットのいいとこどりとして重宝しますよね。 この場合、はんだを乗せるというより、はんだで固めると言ったほうが良いかもしれません。

2)【はんだめっき】単銅線の表面をはんだでコーティングする ----- 加工した電線の例(B)
  これは何のために行うのでしょうか? 筆者は、被覆を剥いたばかりでピカピカの銅の色が好きなのですが、空気にさらされていると、徐々に黒っぽくなり、鈍い色になってしまいます。 身近なところでは、10円玉の表面がそうですね。 はんだあげを行えば、表面がはんだの銀色に覆われていつまでも? きれい? になります。 銅表面の酸化防止になり、はんだの【乗り】が悪くなるのをある程度防げます。 (銅のような目立った色の変化はなくても、はんだも酸化は進行しますけどね。)
  これ以外にも一般に言うコーティングの意味はありますが、電線のはんだコーティングに関しては筆者には、ほかに思いつきませんでした。

3)【予備はんだ】圧着端子に圧着しないではんだ付け など ----- 加工した電線の例(B)(E)
  予備はんだについては、2)とほぼ同様です。
  圧着端子に関しては、推奨されていないものとして今回は言及しないでおきましょう。


  さて、だいぶ前置きが長くなっていますが、端子台や、ターミナルなどに接続する場合にどのような 影響があるのか、ないのかを見ていきましょう。(ここでは接触上の影響について考えることとし、はんだ付けによる結線の場合は、金属同士での接合がされますので対象外となります。)

  それぞれ、多少の差はあるものの、端子台ターミナルに接続したときには 電線の表面に、ある程度の厚みを持ってはんだが付いているという共通の状況があり、同様のことが起こる可能性があると考えても間違いではないと思われます。
  通常、電線の導体の材質は銅(Cu)がほとんどで、弊社の端子台や、ターミナルなども銅線または銅・銅合金の圧着端子等用となっています。  電線には、アルミニウム製のものもありますが、屋内での配線に使われることは、ほぼありません。 (アルミ電線については、別の機会にゆずりましょう)
  
  金属の物性には物理学上の難しい定義があるようですが、難しいことは専門家にお任せするとして、圧力を加えたときに変形しにくいということのみに着目し、ここでは単純に「硬い」、「柔らかい」として表現し、端子台等電気部品に多用される黄銅(銅Cuと亜鉛Znの合金)と、はんだの成分である鉛Pb、錫Sn、銅Cu、銀Agとで、硬さの比較をしてみることにします。 (話は違いますが、黄銅は、導電性と機械的な強度のいいとこどり合金として知られていますね。)
  なお、各金属とも、若干の配合がされていたり、熱的処理があったり等で逆転することもあります。  また、ここでは学問上の難しいことはさておき、単純にイメージとしていますのでご了承ください。

(硬い) 黄銅 > 銅 > 銀 > 錫 > 鉛 (柔らかい)   となるのが一般的かと思います。

  普通の端子台で考えると、端子の金具が黄銅、電線を締付けるねじやワッシャーの類が黄銅やリン青銅や鋼(鉄)です。 (端子台の金属部材としては、黄銅が一番柔らかいものとなります。)  電線が銅であった場合、上記の順位のなかで電線が黄銅に次いで二番目に硬いものとなります。  この電線にはんだあげをすることで、錫などの柔らかい金属が電線表面を覆い、もともとの電線の硬さより柔らかくなります。  これらの金属を接続(締付け)したとき、締付けた力に対してある程度の硬さを持ち、締め付け力に反発し耐えてくれれば、「接続OK」となりますが、つぶれてしまった場合は、締め付け力が有効に働かず、満足な接続(接触)が得られない恐れが出て来ます。

          さて、ここらへんでblog_ins_coffee_03.png    
コーヒーブ レーク
といたしましょう。blog_ins_cake_02.png



  いま、これを読んでくださっている方々は、天婦羅はお好きでしょうか?  美味しいですよねー。 あの揚げたての天ぷら。
どなたですか?  カロリーが、し、ん、ぱ、い、 って、「お・も・て・な・し」 みたいに言っているのは!
目の前であげているときの、ジューッ、しゅわー、パチパチ、ピチピチなどの音、オノマトペが発達している日本では、いろんな表現がされていますね。 では、ここで、俳句などを、、、詠めるような人ではありません。  音からして、これからおいしい天ぷらがたべられるぞ! と、期待が高まります。  さらに、良い香りが加われば言うことなしですね。  調理される工程を見ているときから食事は始まっています。  てなことを言ってると、なぜかおなかがすいてきます。

  妄想はこれくらいにしまして、はんだ付けにもblog_ins_tenpura_01.png          「てんぷら」blog_ins_imo_01.png            「イモ」

あるのをご存じでしょうか?  (美味しい話から現実の世界に引き戻されてしまいますね。) はんだの「てんぷら」や「イモ」は、美味しくもなんともない「不良品」のもとです。  通常、はんだは、はんだされるものも、はんだ自体も十分に熱せられて、表面をすーっと滑らかに流れていくものなのですが、加熱量が不足していたり、表面が汚れていたりすると、きれいに流れてくれません。

  でも、はんだは付いていて、電線なども固定され(ているように見え)ます。  先に、はんだは金属表面で合金層を作ると紹介いたしました。  合金層が形成されていれば、はんだ付けは花丸で、強度も確保されていますが、「てんぷら」や「イモ」の場合は、合金層はおろか、電気的にも機械的にもまともな接続がされておりません。  食べ物の世界ならどちらも捨てがたいものだし、合体して「イモのてんぷら」となれば、これはウエルカムな人も多いでしょう。

  てんぷらは、金属表面に乗っていて、接続されているように見えるだけのものでしかありません。  良好なはんだ付けにおいては、はんだ表面が滑らかでツヤがあり、いわば富士山のように、なだらかな裾野が広がっていますが、てんぷらやイモの場合は、見るからに美しくもないし、頼りなさげに見えます。  もちろんおいしくもないでしょう。 下の図をご覧ください。

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  平らな端子金具の上に線を置き、はんだを流した時の線の輪切り方向の断面図

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を表しています。  (好ましくない例)は、はんだが少なすぎて頼りない感じがしますし、今にも外れそうにも見えます。 それにくらべて、(良好な例)は、強度があり見た目にも美しく見えますよね。  富士山の形が良いはんだの例とよく言われます。

  はんだが、ボテっと付いているのがイモはんだ、ペロンと簡単にはがれそうなのが、てんぷらと呼ばれていて、正確な語源は存じませんが、はんだの形がボコボコしていてイモのようだとか、はんだがうまくできない新人さんを「イモ」と言っていたのにかけたとか、はんだがてんぷらの衣のように簡単にはがれてしまうから、てんぷらと言うとかという話があります。  筆者は、そんな区別も内容も知らずに、子供のころから、ちゃんとついていないはんだを「イモはんだ」とだけ呼んでいました。(子供のころは、天ぷらは食べるものとしか知りませんでした) 余談はこのくらいにしておき、そろそろ本線に戻ります

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電線がつぶれてしまった場合は、締め付け力が有効に働かず、満足な接続(接触)が得られない恐れがあります ----- ということでしたね。 つまり、端子金具等に電線をねじなどで押し付けて接続するときに、間に柔らかいもの=はんだを挟んで固定したことになります。 イメージ的には【模式図】のようになります。

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  【模式図】は、はんだあげを行った銅線をねじ等で締め付けるときの状況を図式化したものです。  通常は銅の線のみですが、はんだの層(図において、グレー色の部分)が間に入ることになります。
  【はんだの挙動】は、【模式図】において、実際にねじを締めつけたときに、はんだが外方向に逃げる様子を示したものです。
  【応力緩和の回避例】は、外方向にはんだが逃げないように バリアを追加で設けた状態を示します。(一般に寸法的にシビアになり、リーズナブルなコストで量産するのは困難と思われます。)

  いま、分かりやすく例えて、仮に電線が「うどん」で出来ていたとします。  (そんなわけあるかい!と、突っ込んだ方、座布団一枚です) 締めても締めてもつぶれてしまって締まらないということが容易に分かります。  はんだはそこまで軟らかくないのですが、中途半端に軟らかい(半端に硬い)ので、逆に注意が必要であると言えます。
  締めたときにはそれなりに手ごたえがあるので「締まっている」と思えるから始末が悪いのです。  はんだ上げされ“締められた” 電線は、そのはんだ部分が長い時間をかけて徐々に変形(塑性変形=もとに戻らない変形)していき、締め付け力が徐々に減少し、締めたはずのところが実質的に緩んでいくのです。 (応力緩和、クリープなどと言われています) 材質や構造、形状などによって大きな差があるのですが、今日は大丈夫でも明日は分からないのです。

  それは3日後かも、3か月後かも、3年後かもしれません。  ♪♪来ーる、きっと来る♪♪こわいですねー。  最終的にはほとんど力がかかってない状態にもなり得るのです。  つまり最悪の場合で、まれなことですが、大げさに言えば接続といっても、端子のような金属の上に被覆を剥いた電線を置いただけのような状態になるので、かなり危険であることが分かります。 (実際にそこまで行った事例はそう多くはありませんが、接続部分が焦げたといった事例を聞いたことがあります。)

  さて、錫などが悪者のようになってしまいましたが、「電気部品の表面て、錫めっきって結構多いよね。  より線の素線も錫めっき付きのもあるし、これって駄目なの?」 という声が聞こえてきそうです。 御心配には及びません。 めっきの厚みはミクロン単位 (マイクロメートル単位)で、1ミクロンは1000分の1ミリです。  めっきが3ミクロンあって、これが変形したとしても、3/1000ミリのうちのいくばくかの部分です。 はんだあげの厚みとは文字通り桁が違います。
  端子台などでは、 ゆるみ止めの意味でスプリングワッシャーなどが多く用いられていますが、 応力緩和対策としても一定の効果が期待できます。 また、スプリングの反発力を利用しているスクリューレス端子台などは、 スプリングが電線の変形に対して追従するので応力緩和が起きにくくなっています。 (でも、基本的にはんだ上げは問題の元となる可能性があるので、出来るだけ避けましょう。 応力緩和のほかにも、残留フラックスや表面に生成される酸化物等による接触上の問題が発生する場合がありますので、注意が必要です。)

  最後になってしまいましたが、お勧めしている接続する電線の形態は、前出の図「加工した電線の例」の中で〇印を付けた(A)(D)となります。 △印の(C)は、素線のバラケと、飛び出しの可能性がありますので、あまりお勧めいたしません。
  
なお、一部のメーカーでは、スプリングを用いた端子にて、はんだあげした電線も適合電線として使用可能としている場合もあるようですので、ご確認いただければと思います。

  今回も、まとまらない話にお付き合いくださりありがとうございました。

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